無保険の預金全額保護で発生した預金保険基金(DIF)の損失補填

 2023年3月10日に破綻したシリコン・バレー銀行(SVB)と3月12日に破綻したSignature Bankの支援処理にかかった費用の大部分は、米連邦預金保険公社(FDIC;Federal Deposit Insurance Corporation)は預金保険基金(DIF:Deposit Insurance Fund)から拠出されました。

 FDICが救済するのは、法制度上(12 USC 1823条(c))は、保険対象の預金だけです。
 今回の措置は、Systemic Riskで金融市場全体の金融危機によるものであることを理由に特別措置で25万ドルを超える保険対象外の預金者まで保護対象としたので、FDICの費用負担が増えました。
 2022年末で1282億ドルあった基金残高がSVBとSignature Bankの2行の預金者の全額保護や破綻処理で最大200億ドルの損失(将来発生分を含む)が発生すると見込まれているので、今後はかなり減少することが見込まれています。
 
 2023年5月11日付けでFDIC理事会は、今回の緊急支援はSystemic Riskで金融市場全体の金融危機によるものであることを理由に、保険基金から拠出した費用について全米の銀行にFDICが負担した損失の補填負担(特別賦課金)を求める特別決議をしました。

 この特別賦課金はパブリックコメントを経て、6月頃に最終決定される予定ですが、この特別賦課金の負担により銀行の損益は今後減少するとの予想が出ています。

1.DIF法が求めるSystemic Risk 決定による損失回収(補填)制度
 米国の連邦法・DIF法(12 USC 1823条(c)(4)(G)(ⅱ)(Ⅰ、Ⅲ))では、Systemic Risk と認定した支援措置で基金に損失が発生した場合には、FDICが銀行に対して基金の損失補填を求め回収(recover)しなければならない義務規定を設けています。

(ii)Repayment of loss.
(I)In general.
The Corporation shall recover the loss to the Deposit Insurance Fund arising from any action taken or assistance provided with respect to an insured depository institution under clause (i) from 1 or more special assessments on insured depository institutions, depository institution holding companies (with the concurrence of the Secretary of the Treasury with respect to holding companies), or both, as the Corporation determines to be appropriate.
 仮訳
 (I)原則
 公社は、第(i)項に基づく被保険預金取扱機関に対する措置または支援から生じる預金保険 基金の損失を、公社が適切と判断した場合、被保険預金取扱機関、預金取扱機関保有会社(保有会社については財務 省の同意を得て)、またはその両方に対する1つまたは複数の特別賦課金から回収しなければならない。

 Systemic Riskの救済措置で発生した損失は一定の評価計算式に従って銀行が補填負担するように規定されています。
 
 (III)Regulations.
 The Corporation shall prescribe such regulations as it deems necessary to implement this clause. In prescribing such regulations, defining terms, and setting the appropriate assessment rate or rates, the Corporation shall establish rates sufficient to cover the losses incurred as a result of the actions of the Corporation under clause (i) and shall consider: the types of entities that benefit from any action taken or assistance provided under this subparagraph; economic conditions, the effects on the industry, and such other factors as the Corporation deems appropriate and relevant to the action taken or the assistance provided. Any funds so collected that exceed actual losses shall be placed in the Deposit Insurance Fund.
 仮訳
 公社は、本項を実施するために必要と思われる規則を制定するものとする。公社は、このような規則を定め、用語を定義し、適切な評価率を設定する際、第(i)項に基づく公社の措置の結果発生した損失をカバーするのに十分な率を設定するものとし、本号に基づく措置または援助の提供により利益を得る主体の種類、経済状況、業界への影響、および公社の措置または援助の提供に適切かつ関連すると考えられるその他の要因を検討するものとする。徴収された資金が実際の損失を上回った場合は、預金保険基金に預けられるものとする。

2.今回の預金保険基金(DIF)の損失原因
 2つの銀行の破綻処理で発生した損失の内容は次のものです。 
 一つ目は、2つの破綻した銀行の預金者を全額保護対象したことで無保険の預金(25万ドルを超える預金)まで保護したことに伴う費用。
 二つ目は、2つの破綻した銀行が保有していた証券で時価下落のため買収者がその承継を拒否したことでFDICの手元に残ったモーゲージ証券の売却処分で発生する損失。
 三つ目は、買収者が2つの破綻した銀行から承継したの融資貸付金が将来において貸倒となった場合に貸倒損失の1/2をFDIC負担する損失補償(“loss-share transaction”)

 今回FDICが全米の銀行に求める特別賦課金は、発生した損失全体のうち無保険の預金者を全額保護したことに起因する損失見込み約158億ドル($15.8 billion was attributable to the protection of uninsured depositors)を基礎として計算することになっています。

3.銀行が負担する特別賦課金(assessment)
(1)特別賦課金を負担する銀行
  負担するのは総資産50億ドル以上の銀行で、全米113の銀行。
(2)負担率
  預金保険対象外の大口預金の推定額を基準として年率0.125%の負担拠出を求める。四半期ごとに見直す。
(3)賦課金合計  
  拠出金の95%以上は総資産500億ドル以上の大手・中堅銀行が負担することになる。
  今回の2つの銀行の緊急救済措置により銀行の破綻連鎖が食い止められたことで、金融システム全体が機能不全に陥らないで済んだ。この恩恵は無保険の大口預金者が多い銀行ほど受けたことになるので、大手銀行は基金損失補填の特別賦課金を多く負担すべきであるとの論理構成がなされています。
(4)特別賦課金の徴収期間
  2024年1~3月期から2年間を予定
(5)回収総額
  158億ドルと見込まれる。

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