適格請求書(インボイス)の執行に係る国税庁長官のインタビュー記事

1.国税庁の調査方針 
 日本経済新聞(2023.09.13)に適格請求書(インボイス)の運営に係る国税庁長官のインタビュー記事が掲載されています。
 同記事によると10月に始まる「インボイス制度の税務調査」については「大口・悪質な事例に限定」して実施する意向が示し、インタビューには次のように答えています。
 
「警備な記載のミスを確認するための調査はこれまでしてきていない。記載事項(の不備)をあげつらうような調査はしない」、
「制度の定着を図ることが当面重要な課題だ。柔軟かつ丁寧な対応をしていきたい」
「記載の漏れがあったときに(別の方法で)きちんと確認できれば申告漏れだと指摘することはない」

適格請求書(インボイス)の執行に係る国税庁長官のインタビュー

2.平成元年の消費税法制定時の対応
 今回の国税庁長官のインタビュアー記事は平成元年(1989)の消費税法立法時の法の執行の弾力的運営を彷彿させます。
 
 消費税法は税制改革法(昭和63年法律第107号)第10条を根拠法として立法化されました。(下記4参照)
 消費税法のような間接税(付加価値税)の導入は日本で始めての税制であることから、消費税法の執行は「弾力的運営」で行う措置規定が税制改革法第17条第2項に設けられました。

3.執行における弾力的運営の推移
(1)弾力的運営が通則法が規定する正当な理由たり得るか
 平成元年の消費税法施行から4年経つた頃から「弾力的運営」の意味合いが変わってきて、弾力的運用であっても、調査で誤りが見つかれば当然に修正申告すべきに変り、「弾力的運営」とは違法状態を容認することではないとの解釈も示されるようになりました。

 国税不服審判所の裁決事例においても、税制改革法第17条の「弾力的運営」条項は国税通則法65条4項が規定する過少申告加算税の「正当な理由」には該当しないとの裁決も出ています。

  消費税の申告の誤りが、基準期間の消費税の課税売上高の計算誤りによる
 ものであって、当該基準期間が税制改革法第17条2項に規定する弾力的運
 営期間内であり、計算誤りが同期間内における判断結果に基づくものである
 としても、弾力的運営の対象ではなく、過少申告をしたことにつき正当な理
 由(通則法65条4項)があるとは認められない。
 (平成6年11月30日裁決)国税裁決事例集NO.48平成6年分・第2

(2)仕入税額控除の帳簿の形式的要件の厳格化
 消費税法30条7項、8項に係る裁判事例も平成7年頃から増えてきて、消費税の仕入税額控除は形式要件で否認される解釈が確定するようになってきました。
  
 2023年10月1日改正消費税法施行後の仕入税額控除の要件は「帳簿及び請求書」の請求書が(適格請求書)になるのですから厳しくなる筈です。適格請求書(インボイス)の法定記載事項に不備があれば帳簿の法定記載事項の不備につながります。
 
 過去の採決や裁判事例で争われたような事例は仮名を記載した帳簿などで通常の事例とは異なりますが、適格請求書(インボイス)導入後においては形式要件不備が緩和されるとは思えないので、帳簿の記載には注意が必要と思います。

4.税制改革法(昭和63年法律第107号)
 第10条(消費税の創設) 
 現行の個別間接税制度が直面している諸問題を根本的に解決し、税体系全体を通ずる税負担の公平を図るとともに、国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するため、消費に広く薄く負担を求める消費税を創設する。

  2項 消費税は、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において
    課税し、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方
    式によるものとし、その税率は、百分の3とする。この場合において、
    その仕組みについては、我が国における取引慣行及び納税者の事務負担
    に極力配慮したものとする。

  3項 消費税の創設に伴い、砂糖消費税、物品税、トランプ類税、入場税及
    び通行税を廃止する。

 第11条(消費税の円滑かつ適正な転嫁)
 事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。その際、事業者は、必要と認めるときは、取引の相手方である他の事業者又は消費者にその取引に課せられる消費税の額が明らかとなる措置を講ずるものとする。

  2項 国は、消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与するため、前項の規定を踏
    まえ、消費税の仕組み等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものと
    する。

 第17条 
 今次の税制改革は、その趣旨、基本理念及び方針からみて、整合性をもつて、包括的かつ一体的に行われるものであることにかんがみ、その実施の時期は、各税の改革等の内容及び事前手続に要する期間並びに各税の有する性質に応じて、国税に係るものについてはこの法律の施行の日及びその翌日、昭和64年1月1日並びに同年4月1日とし、地方税等に係るものについては同日及び昭和65年4月1日として、別に法律で適切に定めるものとする。この場合において、相続税及び贈与税の負担の軽減及び合理化に係る改正については、昭和63年1月1日にさかのぼつて適用することとする。

 2項 国税当局においては、昭和64年9月30日までは、消費税になじみの薄い我が国の現状を踏まえ、その執行に当たり、広報、相談及び指導を中心として【弾力的運営を行う】ものとする。

 3項 消費税の中小事業者の事務負担等に配慮した諸措置については、納税者の事務負担、消費税の円滑かつ適正な転嫁の実現の状況、納税者の税負担の公平の確保の必要性等を踏まえ、消費税の仕組みの定着状況等を勘案しつつ、その見直しを行うものとする。
  
5.帳簿の記載事項の不備で仕入税額控除が争われた事例一覧


  

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