シリコン・バレー銀行(Silicon Valley Bank)の破綻

 2023年3月10日に破綻したシリコン・バレー銀行(SVB、カリフオルニア州)が、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理を経て、27日にFirst Citizens Bank & Trust Co(ノースカロライナ州)に入札で引き継がれました。
 今回の破綻処理について、米国内のニュース報道(CNBC,CNN,NewYorkTimesなど)から同行の破綻に至る経緯と破綻内容を纏めたのでご参考にしてください、

1.Silicon Valley Bankの破綻から救済に至る時系列

1983年 カリフォルニア州サンノゼで設立

2021年末
 FRBの銀行監査において6項目の脆弱性を指摘
 流動性ストレステスト
 流動性リスク管理上の問題を指摘
 緊急時資金調達
   注:SVBはサンフランシスコ連邦準備銀行の監督下にあるため、
   連邦準備制度理事会(FRB)の規制に従う必要がある。

2022年5月
 FRBの調査結果発表
 取締役会の機能不全
 リスク管理の弱点
 銀行の内部監査機能不全

2022年10月
 FRBがSVBの役員と面会し、銀行のリスク管理の懸念を伝えた

2022.11月
 JPモルガン銀行はSVBが160億ドルの含み損を抱えていると警告
  注:2022年春からのFRB政策金利の急上昇による長期債の価格
    急落に起因する

2022.12月末
 預金残高1,914億ドル
 総資産 2,090億ドル
 
2023.2.27
 格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、SVBの
 財務状況が危機に瀕しており、資金調達ができなければSVB債券評価を
 大幅に格下げすることを警告通知
 
2023.2.27
 SVBのCEOGreg Beckerが損失公表前に自身のSVB保有株式12451株
 を360万ドルで売却
  この株式売却は2023年1月26日に米国証券取引委員会に提出された
  executive trading plan を通じて行われていた。
  
2023.3.07(火)
 SVBの銀行内で資金調達計画を策定

2023.3.08(水)
 預金引き出し資金に充てるために売却可能な210億ドルの債券の売却計画、
 含み損を抱えた長期債券の売却のため18億ドルの損失計上を公表。
 資金不足対応のため、増資による資金調達計画(22.5億ドル)を公表

2023.3.09(木)
 9日の1日間だけで420億ドルの預金引き出しがあった
 2022年末の預金残高1,750億ドルの81%が信用不安が起きて
 から短期間の間に引き出されたことになる。
   
2023.3.10(金)
 SVBはカリフォルニア州により閉鎖
 SVB株式は朝から取引停止
  注:SVBのCEOGreg Beckerはサンフランシスコ連銀の理事を
    2019年から勤めていたが、破綻した10日付けで解任された。
 米連邦預金保険公社(FDIC;Federal Deposit Insurance Corporation)
 がシリコン・バレー銀行(SVB)の全部の債権・債務を承継(take over)し
 経営権を掌握した。
 SVBの銀行名は、Silicon Valley Bridge Bank と改名された。
 
 この時点でFDICが確認したSVBの総資産1,670億ドル
 SVBの顧客預金1,190億ドル
 
 注:FDICの預金保険基金(DIF)の資金残は1282億ドルがある。
   この資金は一人当たり25万ドルの預金保証に使われるが、SVB預金
   の全てをFDICに承継したため保証額を超える預金も保護されること
   になった。

2023.3.11(土)
 FDICは、SVBの従業員に45日間の勤務継続を要請した。

2023.3.12(日)
 FRBは銀行、貯蓄組合等金融機関に最長1年間(loans of up to one year in length)の
 融資を行う。
 FRBは、Bank Term Funding Program(BTFP)により公開市場操作を
 通じて米国債、不動産担保証券(USagencyMBS)などを担保に
 融資を行う。
 担保として提供される有価証券は市場価値の下落にかかわらず元の額面
 価格(valued at par)で評価して融資(注:買いオペを通じて)を行う。
 
 米財務省の救済策
 米財務省の為替安定基金(Exchange Stabilization Fund、本来は米国の
 為替介入のための緊急準備金)から250億ドル資金を国内銀行の救済
 のために拠出する

2023.3.13(月)
 「Silicon Valley bridge bank」が銀行窓口業務の再開
 預金者は全ての預金(一人当たり25万ドルを超えた無保険預金も保護対象)
 の引き出しが可能になる。

 FDICがSVBの預金と資産をFDICが運営する
 「Silicon Valley bridge bank」に移行処理完了。
 破綻に伴い9日、10日のSVBの電信送金は全部取り消されたので
 再度処理が必要である旨を元のSVBの送金者に連絡

 HSBC(英国)がSVB・UKを買収

2023.3.17(金)
 SVBの親会社であるSVB Financialが3月17日に破産を申請した。

2023.3.27(月)
 First Citizens Bank & Trust Coはpurchase and assumption(P&A)
 契約により、「Silicon Valley bridge bank」から倒産したSVBの資産
 を購入した。
 
  注:買収資産の内訳
    720億ドルの資産(165億ドルの割引haircut価格で購入)
    560億ドルの預金

    3月10日にFDICが確認した総資産は1670億ドルであった。

    買収資産にはSVB保有の価値が下落した証券は含まれずFDIC
    に残ったので将来処分し、損失充当に充てられる予定。
    
    SVBの資産の内、住宅ローン担保証券(モーゲージ 証券)900億
    ドルはFirst Citizens Bankが買取を拒否したためFDIC(管財人)
    の手元に残った。このことが後日判明した
    
    買い取り拒否の理由は不明であるが、極めて格付けの低いの住宅
    ローン担保証券(モーゲージ証券)であろう。
    FRB政策金利の過去1年の急上昇による米10年債運用平均利回
    り(yield rate)ベースで試算すると下落率は少なくとも54%
    (1.79%→3.9%)にはなる。
     
 First Citizens Bankに譲渡したSVBの融資貸付金について将来貸倒損が
 発生した場合に備えて、FDICとFirst Citizens Bankが損失補償契約
 “loss-share transaction”を締結した。
 この契約により譲渡した融資貸付金720億ドルから50億ドルを超える
 貸倒損が発生した場合は、損失の1/2がFDICからFirst Citizens
 Bankに補償される。

 買収代金を現金で支払う代わりにFirst Citizens BankはFDICに
 ”equity appreciation rights”を付与した。
 ”equity appreciation rights”はストック・オプション類似の権利であり、
 この評価額は5億ドル(potential value)であった。
 DFICは28日に権利行使により株式を選択取得している。
 取得した株式の価格は一株582ドル、500万株相当である。
  注:FDICはFirst Citizens Bankの株価が将来上昇した時点で
    売却することで今回発生した損失の資金回収をするのであろう。
    FDICは今回預金者の預金を全額保証したことにより発生した
    損失は最大200億ドルと見積もられている。

 元のSVBの17の支店はFirst Citizens Bankの支店として営業する。
  注:First Citizens Bankは、ノースカロライナ州ローリーに1898年
    に設立された同族経営の銀行。全米22州に500の支店を保有
    過去20を超える破綻した銀行を買収しており、2009年以降
    はFDIC管理下に置かれた破綻銀行を多く買収している。

2023.4.5(水)
 FDICは、SVB及びSignatre Bankの破綻処理において引き取り拒否の
 ためFDICの手元に残ったモーゲージ証券の売却処分のためにBlackRockと
 包括的顧問契約を締結した。売却で得た資金は破綻処理費用に充当される。

2.SVBの財務内容の悪化原因及び情報公開
(1)SVBの預金増加要因と減少要因
 コロナとゼロ金利の金融緩和でハイテクのスタートアップ企業が株式調達
 で集めた資金が余剰となり、スタートアップ企業はSVBに一時的に預け
 入れをしたが、預け入れ預金については定期預金は少なかった。
 SVBの預金残高は2022年3月末で前年同月比で6割増の1980億
 ドルとなった。
  注:         預金残高の推移   総資産
   2018年3月末    490億ドル
   2019年3月末    620億ドル  
   2019年末             600億ドル
   2020年3月末   1020億ドル
   2021年3月末   1237億ドル
   2022年3月末   1980億ドル
   2022年末     1750億ドル 2090億ドル
   2023年3月破綻  1190億ドル 1670億ドル 
  (SVB bridge bank設立時)

 FRBの政策金利の上昇に伴いSVBから融資を受けていたスタートアップ
 企業の金利負担は急上昇していった。
 2022年後半にはスタートアップ企業の資金が枯渇してきたのでSVB
 からの預金引き出しが続き流動性に問題が生じていた。
 SVBは預金引き出しに対応するために長期保有証券の売却による資金調達
 に迫られていた。

(2)SVBの資産運用 
 SVBはコロナで貸出先が減少し、ゼロ金利のため、余剰資金を金利の高い
 長期債券を中心に運用するようになった。
 運用資金の75%(950億ドル相当)は利率の高い長期債券(当時の平均
 利回り1.79%)であった。
 
 別な報道では運用資産の構成内容は次のとおり。
  住宅ローン担保証券(モーゲージ 証券) 915憶ドル(73%)
  T-Bills               172億ドル(13%)
  注:(Treasury Bills)は米国財務省発行の利払い無しの
    短期償還割引債(1カ月、3カ月、6カ月、12カ月)である。
    SVBの運用は長期証券中心の運用であったことがオンバラスの
    流動性を低下させる原因となっていた。

 2022年3月からFRBがインフレ退治で政策金利(Fderal Fund Rate)
 を急上昇させたため、10年長期債の平均利回りが3.9%となり、既発
 証券の価格が急落していた。
  金利上昇に伴いSVB保有の長期証券に含み損が発生するようになった。
 
  注:SVBの保有証券は不動産担保証券が多かったため、政策金利の他に
    不動産業の不振の影響を受けて不動産担保証券の価値が大きく下落し
    ていた。
    2023年の不動産ローンの年間伸び率は対前年同月比50%以下
    住宅ローン担保証券の発行高は対前年同月比78%減少した。
    SVBは預金者の預金引き出しに対応するための資金繰りで、
    含み損を抱えていた長期証券の売却に追い込まれ含み損失の実現で
    資本リスクを顕在化させてしまった。
    
    SVBと同じ時期に倒産したSignature銀行とFirst Republic銀行
    はどちらも中規模の地方銀行で、両行とも融資先の中心は商業用
    不動産の建築業者であったから同様のことが起きている。

(3)SVBの財務内容の悪化の公表の遅れと取付のきっかけ
 SVBは保有する債券(大部分が長期)を満期保有目的に分類(classified
 as “held to maturity”)していた。満期保有目的債券は、貸借対照表上は
 金利変動に伴う債券の時価変動(リスク)による強制的な評価替の義務付け
 がないので、その会計制度上の抜け道(an accounting loophole)を利用し
 ていた。
 
 SVBの預金者は大部分がFDICの預金保険基金(DIF)により
 保証される一人当たり25万ドルを超える預金者であったため、
 SVBの預金の88%が無保険であった。
 
 かつ、預金者の多くは不安定なテクノロジー企業で、日々の情報交換を
 SNSを通じて行うテクノロジー企業だったため、信用不安情報が一気に
 伝わり、無保険の預金引き出しが一気に進んでしまった。

シリコン・バレー銀行(Silicon Valley Bank)の破綻処理に係る投稿一覧
は次のとおりです。

Silicon Valley Bankの破綻と銀行監督規制の動向

SVBの破綻処理でFDICに付与されたequity appreciation right

Silicon Valley Bank及びSignatre Bankの破綻処理に伴う債券売却

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