First Republic Bankの破綻処理

First Republic Bankが2023年5月1日に破綻し、即日、JPMorgan Chase & Co.に買収されましたが、その破綻処理は次のような内容です

 3月中旬にシリコン・バレー銀行(SVB)とSignature Bankが破綻したことをきっかけに地方銀行の預金解約流出が止まらなくなり財務内容が悪化したことが直接の原因ではありますが、背後には財務体質の脆弱性、資産運用のリスク管理の貧弱性があったことが指摘されています。

1.背景 
 シリコン・バレー銀行(SVB)が破綻し、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理を経てFirst Citizens Bank & Trust Coに3月27日に買収された後も地方の銀行では信用不安から保険対象外の預金の流出が続いていました。
 First Republic Bankは、個人富裕層への長期住宅ローンに重点を置く営業をしていました。
 2022年からのFRBの政策金利の急上昇でFirst Republic Bankが提供していた低利の住宅ローンの採算が悪化し、長期債券投資では損失を出していました。

2.破綻に至る経緯
1985年設立(サンフランシスコ)
 現在では8州にまたがる82の支店を有し、カリフォルニア州以外では高所得地域を中心に裕福な顧客を中心に営業を続けていました。

2022年12月末
 預金残高:1760億ドル(68%がFDICの保険対象外の預金であった。)
 預金の63%が法人預金、残りが個人預金

 貸付ローンと長期米国債への投資の合計が対預金残高に対して111%であったことから流動性リスクを抱える財務体質であったことが指摘されていました。

2023年3月10日
 SVB(Silicon Valley Bank)破綻 

2023年3月12日
 Signature Bank 破綻

2023年3月16日
 イェレン財務長官の働きかけに応じ、JPMorganが米国の大手銀行を取りまとめ, Bank of America, Wells Fargo、Citigroup、Truistなど米国の大手銀行11行がFirst Republic Bankに300億ドルの緊急協調支援(life line)として定期預金(無保険の預金)の預け入れを行いました。
 なお、この緊急協調支援の預金300億ドルは2023年7月以後は引き出し可能の特約条項が付いていたので、不安定な資金援助でした。
 First Republic Bankは手持ちの有価証券を担保にFRBなどから920億ドルを借り入れており、FRBからの借入が借入金全体の72%を占めていました。

2023年4月24日
 First Republic Bank が第1四半期決算を公表しました。
 純利益は2億6900万ドル(対前年同月比33%減)でした。

 SVBとSignature Bankの破綻以後、First Republic Bank からの預金引き出しが止まらず、第1四半期の3ヶ月間で1020億ドルの預金引き出し(預金の41%相当)があり、預金残高が1045億ドルまで減少したことを公表しました。
 
 預金残高は大凡次のように計算できます。
  1760億ドル(期首2022年12月末残高)
 -1020億ドル(顧客の預金引出)
 + 300億ドル(大手11行からの緊急協調支援預金受け入れ)
 ----------------------------
  1040億ドル(2023年3月末の差引残高)
 
 First Republic Bankの顧客の2/3の預金はFDIC(米連邦預金保険公社)の保険25万ドルを超えるものであったため、これら保健対象外の預金の引き出しが続いたそうです。
 決算発表では、First Republic Bank は2022年末までに従業員約7,200人の1/4を解雇、役員報酬の削減計画も公表されています。

 第1四半期の決算発表で預金流出が1020億ドルであったことの影響が大きく、翌日の株価が50%急落しNY証券取引所はFirst Citizens Bank の売買取引を複数回停止する事態となりました。
  
2023年4月30日
 First Republic Bankへの更なる支援計画が検討されましたが、3月16日に300億ドルの緊急協調支援の定期預金を預け入れに協力した11の銀行は、新たな救済計画には同調しなかったそうです。

 FDICは、JPMorgan、PNCファイナンシャル、USバンコープ、バンクオブアメリカなどの銀行に対してFirst Republic Bankの買収入札に応ずるように督促していました。
 同時に、First Republic BankをFDICの管理下に置いた上で、売却する方法が検討されていた。

2023年5月1日(月)
 FDIC(連邦預金保険公社)はJPMorganがFirst Republic Bankを買収したと公表しました。
 First Republic Bankの第1四半期決算発表から1週間後の買収処理でした。

3.First Republic Bankの破綻処理とSVB破綻時の破綻処理の違い
(1)FDICの処理
 5月1日(月)にカリフォルニア州金融保護局(California Department of Financial and Protection)がFirst Republic Bankを閉鎖しました。
 管財人(receiver)にFDICが指名された。
 同日にFDICはJPMorgan(買収落札者)との間で破綻処理のpurchase and assumption(P&A)契約を締結しました。

(2)類似点と相違点
 今回の買収手順においては3月10日に破綻したSVB(シリコン・バレー銀行)と同じくP&A契約(健全資産と預金を既存金融機関に移管する手法)でしたが、その手法には違いが見られます。

 SVB破綻の場合は、FDIC自身が全部の資産・負債を承継し経営権を一度獲得しています。
 その後に新規に設立したSVB Bridge Bankに全部の資産・負債を移管し、同時にFDICが預金全額を無制限保護の対象としました。
 Bridge Bankは、P&A契約によりFirst Citizens Bank & Trust Coに選別された資産・負債を承継しました。
 
 今回は、First Republic Bank(破綻者)の破産管財人にFDICが指名され、FDICが管財人としてP&A契約で資産・負債をFirst Republic BankからJPMorgan(承継者)に移管しました。
 預金については、全額預金保護措置が取られなかったのは、大規模のJPMorganが承継したことが理由のようです。 

4.資産(貸付金・有価証券)・債務(預金)の移管
FDICの公式発表や報道によると、以下のとおりである。 

(1)買取価格 
 JPMorganはP&A契約でFDIC(連邦保険公社)から106億ドルでFirst Republic Bankの資産・負債を承継「to assume all of the deposits and substantially all of the assets」する。
 
 4月13日時点の総資産2,291億ドル
  承継した資産は、貸付ローン債権1,730億ドル及び投資証券300億ドル合計2,030との報道がある。

 4月13日時点の銀行預金残高(銀行にとっては負債)1,039億ドル
  承継した預金残高は920億ドルとの報道もある。
  
 承継された純資産
  総資産2,030億ドル、預金(負債相当)920億ドルだから差引1,110億ドルが純資産となる。
 JPMorganは3月16日に50億ドルの緊急協調支援預金を行っていたので、その支援金を控除すると実質991億ドルが承継された純資産となる。
 991億ドルを106億ドルの割引価格で承継した計算になる。
 
(2)First Republic Bankの営業店舗は全て、JPMorganの店舗として営業活動する。
 
(3)“loss-share transaction”条項 
 破綻処理のP&A契約には損失折半(loss-share transaction)の特約条項が含まれており、First Republic Bankから承継した住宅貸付ローン、商業貸付ローン1,730億ドルが将来貸倒で損失が発生した場合はFDICからJPMorganに損失が補償されます。
 なお、損失補償期間は公表されていないので不明ですが、先例のSVBでは補償期間は5年でした。

(4)FDICの信用枠の設定
 承継した預金には1口座25万ドルを超える無保険の預金口座も含まれているので承継した預金の流出に備えて、FDICはJPMorganに500億ドルの融資枠を設定しました。(provided $50 billion in financing to JPMorgan Chase)
  
5.その他
 2023年3月16日にJPMorganが取りまとめて行った緊急協調支援預金300億ドルについては承継後にJPMorganが支援10銀行に250億ドルを返還し、JPMorgan自身が支援した50億ドルは資産・負債の消去処理をするとのことです。

 FDICの預金保険基金(DIF)が負担する最終的費用は130億ドルと見込まれている。
  参考:SVBの買収価格は200億ドルと見込まれています。

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