令和5年度改正の電帳法の「新たな猶予措置」と消費税の電子インボイスの関係

1.令和3年度改正の宥恕措置(令和5年12月31日までの電子取引情報)
 令和3年度の税制改正において電帳法第7条が改正されました。
法人税・所得税法における電子取引に係る取引情報については、電子取引情報を紙で代替的に書面出力保存する規定が削除されました。
 その結果、法7条が規定する電子取引情報は電磁的記録保存のみとなりました。

 電帳法第7条の改正「電子取引情報は電磁的記録保存のみ」の影響が大きく、準備が間に合わないという批判が噴出し、改正法の施行(令和4年1月1日)直前に、法令要件に従った電磁的記録保存ができなかった場合で、「やむを得ない事情」がある場合は宥恕措置で設けられました。(令和3年12月27日付け)
 宥恕措置は電帳規則第4条第③項の読み替え規定で設けられました。
 第③項にはもともと「災害その他やむを得ない事情」がある場合には電磁的記録を書面出力できるという規定があるので、この第③項の規定が電子保存の準備が間に合わない事情がある場合にも対応きるように読み替え規定(規則附則80号)を設けました。
 この宥恕規定は経過措置で期限は令和5年12月31日までと規定されていました。

2.令和5年度改正の新たな猶予措置(令和6年1月1日以後の電子取引情報)
 上記の宥恕措置が令和5年12月31日で期限切れとなるため、令和5年度改正で「新たな猶予措置」が導入されました。
 「新たな猶予措置」は附則規定ではなく電帳規則第4条第③項の改正で恒久的な措置として規定されました。
 令和6年1月1日以後の電子取引情報の電磁的保存は、原則は電帳規則第4条第①項が適用され、「相当の理由」がある場合には第③項が適用される構成になっています。
 なお、電帳規則第4条第①項には小規模事業者対応の措置も規定されています。

 電帳規則第4条第③項の改正は、「相当の理由」があると認められる場合で、税務調査において求めに応じて電磁的記録且つ出力書面の両方の提出がある場合に認められるので、条件付き措置です。
 猶予措置の適用があると電磁的規則保存の要件規定が実質不適用になることです。

3.令和3年度の「宥恕措置」と令和5年度の「猶予措置」の違い
 宥恕措置と猶予措置とでは要件に違いがあります。
(1)求めに応じて提出する記録の内容
 令和3年度の猶予措置における求めに応じて提出する記録
  電磁的記録の出力書面のみ
 令和5年度の宥恕措置における求めに応じて提出する記録
  電磁的記録の出力書面及び電磁的記録
   
(2)令和3年度宥恕措置の「やむを得ない事情」と令和5年度の猶予措置「相当の理由」
 電帳法施行規則第4条改正第③項が規定する「相当の理由」がどのようなものであるかは、まだ明確になっていません。2023.06.02現在
 財務省の主税局長は国会では次のように答弁(令和5年3月16日参議院金融委員会)しています。
 「今般の新たなこの猶予措置につきましては、例えば金銭的な理由などによりましてシステム対応が今後ともできないといったような理由も該当するということで、柔軟にこの猶予措置が適用することが可能になるよう、こういった規定にしている」

 参考:令和3年度の猶予措置に係る通達とQ&Aで示された解釈
  電帳規則の通達
   7-1(宥恕措置における「やむを得ない事情」の意義)
   7-11(宥恕措置適用時の取扱い)
  Q&A(一問一答)
   問41-2
   問41-3
   問41-4
   問41-5
   問42

4.消費税法のインボイスを電磁的記録で授受した場合の記録保存
(1)消費税法が準用するのは電帳規則第4条第①項の保存規定
 令和5年10月1日以後は課税取引を行う者は適格請求書(インボイス)の交付・保存、また課税仕入れに係る仕入税額控除の要件として適格請求書(インボイス)の保存が義務付けられています。
 消費税法が売り手側および買い手側の双方にインボイスの保存義務を課す趣旨は課税取引情報の共有化です。
 そのインボイスを電子の形で提供したり提供を受けたりする場合の電子保存の要件は電帳規則第4条第①項に従います。これは消費税法が電帳規則第4条第①項を準用しているからです。
 消費税のインボイスを電子で授受した場合の電磁的記録保存要件と、電帳法が規定する電子取引情報(法人税法と所得税法)の電磁的記録保存の要件は同一ということになります。

 改正消費税規則第15条の5,第26条の8が規定する準用の条文
 電帳「規則第4条第①項各号(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)に掲げる措置のいずれかを行い、同項に規定する要件に準ずる要件に従つて保存する方法とする。」
 
(2)令和5年度改正の電帳規則4条③項が規定しる「相当の理由」による「新たな猶予措置」は消費税インボイスには適用されません。
 電帳法第7条が規定する電子取引情報は法人税法・所得税法に限定した適用ですから消費税法のインボイスが電子取引であっても電帳法7条の適用はありません。
 法体系が異なる以上、それぞれの法体系の下での法定保存ということになります。
 
 消費税法が電子インボイスの電磁的保存のために準用するのは電帳規則第4条第①項であって「新たな猶予措置」を規定した改正電帳規則第4条第③項は準用していないので、消費税法の電子インボイスの電的記録保存には「新たな猶予措置」は適用されないことになります。

 法人税法・所得税法に係る電子取引情報(電帳法7条)が「新たな猶予措置」で「相当の理由」が認められ実質的に電子保存要件が不適の場合でも、同一の電子取引情報が消費税法のインボイスに該当する場合は電帳規則第4条第①項に従って原則どおりの電磁的記録保存を行う義務が生じます。
 (法人税法・所得税法)と(消費税法)とでは扱いにズレが出るので注意が必要です。

 なお、消費税法では、電磁的記録の紙出力の代替的保存が「できる」規定があるので、電子インボイスの電磁的記録の法定保存(電帳規則第4条第①項)が困難な場合には電子インボイスの電磁的記録を全部プリントアウトして対応することになります。

 受信したインボイスの電磁的記録の適格請求書の紙出力の代替的保存規定
  消費税法施行規則15条の5第②項
 提供したインボイスの電磁的記録の適格請求書の紙出力の代替的保存規定
  消費税法施行規則26条の8第②項

電帳法の「新たな猶予措置」と消費税の電子インボイスの関係

電帳規則4条(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存),新たな猶予措置の条文

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