消費税法の媒介者交付特例の改正(平成4年度改正)について

 課税資産の譲渡を行ったときに、媒介者を介して適格請求書を相手方(買い主)に交付できる「媒介者交付特例」という制度(できる規定)があります。
媒介者特例では、媒介者名義の適格請求書が譲渡の相手方(買い主)に交付されますが、この媒介者特例の適用には改正消費税法施行令第70条ノ12が規定する一定の要件(委託者・受託者双方ともに適格請求書発行事業者であること等)に従う必要があります。

 改正施行令第70条ノ12の規定が令和4年4月1日に改正されています。新たに国税徴収法に基づく滞納処分による強制換価(譲渡)手続きに対応するための条文(第5項と6項)が追加挿入されました。
 この政令改正に合わせて同施行規則第26条ノ7も改正されました。

1.改正で挿入された条文
消費税法施行令第70条ノ12(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)

⑤項
 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和34年法律第147号)第2条第12号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第13号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第57条ノ4第①項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。
この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。

⑥項
 第②項及び第③項の規定は、前項の規定の適用を受ける執行機関について準用する。

2.改正の趣旨
 改正の趣旨は、財務省の「令和4年度税制改正の概要」696頁~697頁に公表されています。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2022/explanation/PDF/p0691-0707.pdf

改正は次のような論理構成です。
(1)国税徴収法による強制換価も譲渡であることには変わりがない。
下記4参照
(2)競落人(譲受人)が課税仕入による仕入れ税額控除をするためには競売で落札した目的物の譲渡者(適格請求書発行事業者である滞納者)から適格請求書の交付を受ける必要がある。
しかしながら、公売は国税徴収法に基づく強制執行による換価処分であり滞納者の意思に反して行われる譲渡であるため、譲渡者が競落人の求めに応じて適格請求書を交付するどうかは不明である。
(3)競落人の求めに応じて滞納者が適格請求書の交付を行わない場合に備えて、執行機関(国税当局自身)が適格請求書の交付ができよう、改定第5項を挿入し執行機関が法第57条ノ4第①項規定の適格請求書の代用書類を「交付・提供することができる」ように対処した。

3.滞納処分による強制換価(公売)による国税当局の租税債権の回収手順
①国税当局(執行機関)による滞納者の財産差押え
②競売で当該差押え財産を最高落札者に売却決定(強制換価=譲渡)
③換価代金の執行機関への交付
換価代金(譲渡代金)の交付による租税債権の徴収で、滞納者の納税納税義務が履行されたことになります。

4.強制競売(公売)の私法上の法的効果
 競売(公売)は、国税当局(執行機関)が債務者(滞納者)から取り上げた売却権を行使し、債務者(滞納者)の意思に反する形で、目的物(差押え財産)の所有権を強制的に買受人(競落人)に移転(譲渡)させます。

 目的物の処分権は、あくまでも債務者(滞納者)に由来する処分権であり、執行機関には帰属していないので、処分権行使の私法上の法的効果は、債務者(滞納者)と買受人(競落人)との関係で構成される私法上の売買となります。
債務者(滞納者)は売主の地位にあります。
買受人(競落人)は債務者(滞納者)から所有権を直接承継する関係にあります。
 参考:https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/tyousyu/140924/06/01.htm
    徴基通第89条関係7

 国税当局は、国税徴収法に基づく強制換価・徴収処分のために、自らが執行機関として強制的に金銭徴収を行いますが、この滞納処分による強制換価は、行政法上の強制執行手続きであるため、所有権移転(譲渡)の当事者の地位にはありません。

 改正消費税法施行令第70条ノ12第①項が規定する媒介は媒介契約に基づく媒介であり、媒介契約当事者双方が課税事業者で且つ適格請求書発行事業者登録をした者により行われる媒介行為です。
平成4年度改正により挿入された第⑤項は滞納者と執行機関との間には譲渡に係る媒介契約などは存在せず、滞納者だけが課税事業者・適格請求書発行事業者登録をした者です。第⑤項の行為は媒介と擬制したような行為であり、第①項は異なる行為です。条文の置き場はここしかなかったのかも知れません。

5.その他の執行機関の問題
 平成4年度改正では第⑤項は国税徴収法により国税当局自らが執行機関として行政上の強制換価・強制徴収のみ規定しています。

 一方、民事執行法上は債権者の申立に基づき債務名義を得て行われる強制執行は民事執行法で裁判所または執行官が執行機関(民事執行法第2条)として機能しますが、強制競売において入札で売却許可を受けた買受人が承継する所有権の移転・引渡しのときに債務者(もとの所有者=譲渡者)に適格請求書の交付を求めても交付してもらえない類似の恐れがあると思いますが、こちらについては平成4年度改正は手当がなされていません。
 理由は不明です。

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