消費税の申告の誤りと国税通則法の関係

(1)納税義務との関係(通則法15条)
ア 平8年6月6日裁決(国税裁決事例集No.51 平成8年分・第1)
 消費税の納税義務は、課税資産の譲渡の時に成立(通則法15条2項七号)しているので確定決算が消費税の確定申告の提出の要件となるものではない。  消費税法には提出期限の延長を認める規定が無く、法人税の申告期限の延長の特例適用を受けていることをもって、消費税の期限後申告について、正当な理由があるとはいえない。
 
イ 東京地裁(平10.3.27判決)平8年(行ウ)230号
 原告が負担する消費税の納税義務は原告の行った課税取引により生ずるものであって、仕入先の行った課税取引に係る消費税とはその原因を異にするから、同一原因よる課税が重複するものではない。そして、仕入税額控除が認められない場合に生ずる課税の累積は、法の予定するところであり、違法というべきものではない。
 速報税理 平10.9.1
 (注)
 本件は、上記【仕入税額控除】(4)ウの判例ですが、判旨は納税義務と累積の除(税制改革法10条2項)についても解釈していると読めるので、ここに記載しておきました。

(2)通則法23条の適用
(平9.5.27裁決)国税裁決事例集No.53平成9年分・第1
 消費税施行前に販売した商品につき返品があったかのように仮装して、消費税税額の還付を受けたことに対し、重加算税を賦課したことは適法である。

(3)通則法65条及び66条(過少申告加算税および無申告加算税)の適用
ア (平7.11.6裁決)国税裁決事例集No.50 平成7年分・第2
 簡易課税の選択届出書を提出していたにもかかわらず、本則課税による確定申告で控除不足還付税額を請求したため、簡易課税を適用すべきであるとして更正処分があった。
 過少申告加算税の賦課決定処分に当たり、更正処分により生じた納付すべき税額と更正処分により消滅した還付金の額の合計額を計算の基礎とする。
 通則法65条1項による35条2項の適用に当たっては、現実に還付を受けたか否かは問われない。
 税務事例Vol.31 No.5 1999年5月号

イ (平6.11.30裁決)国税裁決事例集No.48 平成6年分・第2
 消費税の申告の誤りが、基準期間の消費税の課税売上高の計算誤りによるものであって、当該基準期間が税制改革法第17条2項に規定する弾力的運営期間内であり、計算誤りが同期間内における判断結果に基づくものであるとしても、弾力的運営の対象ではなく、過少申告をしたことにつき正当な理由(通則法65条4項)があるとは認められない。

ウ (平6.3.30裁決)国税裁決事例集 No.47 平成6年分・第1
 個人事業から法人なりをした時に、棚卸し資産を有償で法人へ引き継いだことは課税資産の譲渡に該当するが、当該有償引き継ぎを課税標準に算入しなかった。
 税務署からの電話による質問の後に修正申告したことは、通則法65条5項に規定する調査があったことにより更正があるべきことを予知してされた修正申告というべきである。
 また、消費税が導入されて間もないことや知識不足は正当な理由(通則法65条4項)があることには該当しない。

エ 水戸地裁(平8.2.28判決)平5年(行ウ)20号
東京高裁(平9.6.30判決)平8年(行コ)26号
 消費税還付申告者の還付金を減額する修正申告に対し過少申告加算税を賦課することは適法である。
 週刊税務通信No.2430、税研Vol.1481(日本税務研究センタ-)

オ (平成16.6.16裁決)大阪不服審判所
 消費税の納付税額を法定申告期限内に納めたが、確定申告書の提出が期限後であるものについて、「納付書は申告書の法令上の提出先である税務署長に提出されていないこと」、「納付書は消費税法に規定する申告書の記載事項を満たしていないこと」から期限内申告があったとは認められず、無申告加算税(国税通則法66条)の賦課処分が適法と判断された。
 平成16.8.30 刊税務通信No.2834 
 本件に係る新聞記事等は「消費税法にかかる報道」の26をご参照下さい。

大阪地裁(平成17.9.16判決)平16年(行ウ)107号
  本件納付によりその時点で直ちに本件課税期間に係る消費税等の租税債務が消滅するものではなく、後に本件申告書が提出されたことにより本件課税期間に係る消費税等の納付すべき税額が確定され、~           
  国税の納付義務の確定に関する通則法の規定からすれば、被告による本件納付の上記消費税額への充当は、本件申告書が提出され、本件課税期間に係る消費税等の納付すべき税額が確定した時点において、当該税額の確定した租税債務についてされたものと解するほかなく、また、その充当の効果についても、原告の主張のように、いまだ本件課税期間に係る消費税等の納税申告書の提出もなく、したがってその納付すべき税額も確定していない本件納付時点にさかのぼって、上記消費税等に係る租税債務が消滅したものと解することはできないというべきである。

カ (平成16.3.29裁決)国税裁決事例集 No.67 平成16年分・第1
 免税事業者に該当するか否かを判定する際の課税売上高は、請求人が基準期間の確定申告において選択した課税売上高の算出方法によるのであり、それ以外の方法で算出した場合に課税売上高が3,000万円以下となるとしても、そのことは更正の請求をすることができる事由に該当しないとした事例(平成12年9月1日~平成13年8月31日課税期間の消費税及び地方消費税の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分/棄却)

(4)通則法68条(重加算税)の適用
ア (平6.2.18裁決)国税裁決事例集No.47平成6年分・第1
  輸出取引に係る消費税の還付申告において、実際の輸出取引が原告のものではなかったにも関わらず還付申告をしたことに対する更正処分、重加算税の処分について、更正処分は妥当であるが、重加算税処分については輸出取引が帰属せず消費税の納税義務者でなかった原告は国税通則法65条1項の納税義務者には該当しないため同68条1項の重加算税は課税されないとした。
 週刊税務通信No.2430、税研Vol.1481(日本税務研究センタ-)

イ 京都地裁(平15.7.10判決)平成13年(行ウ)第19号
 消費税施行前に販売した商品につき返品があったかのように仮装して、消費税税額の還付を受けたことに対し、重加算税を賦課したことは適法である。

ウ (平18.12.7裁決)国税裁決事例集No.72平成18年分・第2
 賃貸借契約の締結及び本件賃貸料の授受の事実が存在しないにもかかわらず、請求人は、Hに依頼して本件賃貸借契約書を作成させ、さらに、本件賃貸料を受領したかのように領収証を作成するなど、課税資産の譲渡等の対価の額を架空に作出 したものであり、本件建物の取得価額等は、本来非課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れの額となるところ、請求人は、消費税等の還付を受けるため、あたかも本件賃貸借契約及びそれに係る金銭の授受が存在したかのごとく仮装した事実に基づいて、本件建物の取得価額等を課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れの額として本件課税期間の確定申告書を提出したと認められ、これら請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装行為に該当すると 認められるから、重加算税の賦課決定処分は適法である。

(5)理由付記
ア 新潟地裁(平9.7.31判決)平8年(行ウ)5号 税理Vol.41 No.1
 消費税法には、決定通知書に理由を付記すべき旨を定めた規定は存しないところ、原告は白色申告者であるから、本件課税処分に係る通知書に処分理由の付記がないとしても、本件課税処分を無効とするものではない。

イ 大阪地裁(平12.3.29判決)平10年(行ウ)49、51号
 消費税の更正に理由の附記を要求する法令の規定はないから、理由を附記しなくても消費税の更正は違法とはならない。
 税理2001年9月号付録 租税判例の回顧(平成12年上半期)

ウ 東京高裁(平15.9.16判決)平15年(行コ)98号
 消費税の更正処分につき理由の附記を要求する規定が消費税法上存在しない以上、理由の附記は不要である。

(6)信義則・禁反言
ア 東京地裁(平9.8.28判決)平7年(行ウ)232号
 ※ 上記【仕入税額控除】(5)エ 参照
控訴審 東京高裁(平10.9.30判決)平9年(行コ)128号
上告
 仕入税額控除に関する課税庁職員の積極的・明示的公的見解の関係で信義則の適用はないと判旨。

イ 東京高裁(平12.3.30判決)平11年(行コ)50号
 調査に際しても消費税額算定方式に関する公式見解の表示はなかったと認められ、また、消費税法成立後の国の周知義務が著しく不十分であったとはいえないし、消費税額の算定に関する消費税法の規定があいまい・不明確であるとはいえない。
 税理付録 租税判例の回顧平成12年上半期

(7)情報公開法に基づく文書開示
富山地裁(平16.4.14判決)平成15年(行ウ)第2号
 法人課税部門における消費税の還付手続について、消費税法施行令第64条に規定される『当該不足額が過大であると認められる事由がある場合を除き』とする例外的取扱いの判断基準の記載を含む行政文書の開示請求。
 この開示請求文書は、消費税法施行令64条に基づき例外的に消費税の還付を保留する判断基準を記載したもの。
 税理士の開示請求が全面的に認められた。

(8)破産会社に対する更正処分
最高裁第一小法廷(昭和59年3月29日判決)訟務月報30巻8号1495頁参照
(平9.6.19裁決)国税裁決事例集 No.53
 問題となった消費税はもともと破産宣告前の原因に基づく更正処分に係るものであることから、財団債権に該当すると認定し、破産管財人に対する滞納消費税の交付要求については破産管財人に対して既に発生している納税義務に係る弁済を催告するものにすぎない。

PAGE TOP
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。