転 嫁

(1)タクシー運賃①
 消費税の転嫁のためにしたタクシ-運賃の値上申請を却下した運輸局長の処分が違法であるとして国家損害賠償法が認められた。
 転嫁を理由とするタクシ-運賃の値上げの場合であっても、運賃の変更に係る認可手続きである以上、その手続きにおいては法令に定められている諸手続きを履践しなければならない。
 「円滑かつ適正」に転嫁することを目的とするものであると認められる場合には申請を認可すべき。
 (平5.3.2判決)大阪地裁平3(ワ)5327号
 (平6.12.13判決)大阪高裁平5(ネ)730号 判例時報No.1532 訴月43巻1号、税資206号

 国側が上告

 被上告人(タクシ-会社)らは、運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨を陳述したのみで、右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかったというのであるから、同局長(近畿運輸局長)において被上告人らの提出した書類によっては被上告人らの採用した原価計算の合理性について審査判断することができなかったものということができる。
 本件申請について、同号(道路運送法)の基準に適合するか否かを判断するに足りるだけの資料の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱し、又はこれを濫用した違法はないというべきである。
 (平11.7.19判決)最高裁平7(オ)947号
 裁判所時報1248号4頁、判例時報1688号123頁、判例タイムズ1011号75頁

(2)タクシー運賃②
 消費税について簡易課税方式を選択したことにより増収となったタクシ-運賃について一定の割合により管理費を控除した残額はタクシ-運転手に帰属する。
 消費税導入後に伴う運賃改定後における運収とは、消費税相当分も含めて乗客から収受するすべての運賃収入を合わせてものを指すと解すべきである。
 事業者が簡易課税方式を採ることによって生じる本件差額分の限度では、通常の運賃改定における増収と同様の性格を有するものと解して妨げない。
 (平7.10.19判決)金沢地裁平4(ワ)345号 判例タイムズNo.908

(3)タクシー運賃③
 水揚歩合給のタクシ-運転手が、消費税導入に伴う運賃改定により、水揚は税込にすべきと支払請求をしたものであるが、消費税導入に伴う運賃改定は、消費税納入のための原資であり、歩合給の対象となる「運賃収入」にはあたらない。
 なお、タクシ-会社は簡易課税選択事業者であったため、益税分配についても争われたが、益税の具体的証拠不十分で請求棄却。
(平3.11.26)神戸地裁 平元年(ワ)1339号 労働判例 1992.6.15 (No.604)

(4)タクシー運賃④
 三菱タクシ-が近畿運輸局長に対してなした消費税相当分の運賃値上申請につき、その審理を遅らせ却下したことは運輸局長の裁量権を逸脱したものであり、違法であるとして、国家損害賠償が認容された。
 消費税については、税制改革法を引用しつつ実質上の負担者は消費者であるため、転嫁のための運賃値上げは不当ではないと判示しています。
(平7.5.19判決)大阪地裁平5(ワ)890号 判例時報No.1541

 控訴

 消費税の転嫁のための値上げ申請は、適正な原価を償うための通常の値上げ申請に対する審査方法は同じであるが、事業者は求めに応じて審査に必要な資料提供・説明をしなかったので、運輸局長は裁量による審査ができず処分として違法ということはできない。
 却下処分により消費税の転嫁が認められないとしても、処分が適法であれば違法性は具備しない。
(平9.10.31判決)大阪高裁平7(ネ)1425号 判例時報No.1632

 上告

 値上げの理由を「消費税の転嫁」とだけし、その算定根拠を説明しておらず、資料の提出がないとして却下した運輸局長の判断に違法はなかった。
 控訴審支持
(平11.7.19判決)最高裁 読売新聞99.7.20朝刊

(5)家賃①
 家主は、家賃増額(借家法12条)の方法によることなく当然に、借家人に対し消費税3%分の金額を請求することができない。
 消費税法が、消費者に、事業者に対する消費税の支払義務を課したものとか、若しくは、事業者に、消費者に対する私法上の請求権として転嫁請求権を認めたものとまで解することができない。
(平2.8.3判決)大阪地裁昭63(ワ)4656号 判例タイムズNo.741

(6)家賃②
 裁判上の和解により成立した建物賃貸借契約の特約条項の違反を理由に解除が認められた事例の中で、消費税相当分の支払義務を求めるには消費税相当分を支払う旨の合意が成立していることを必要とする。
(平4.4.7) 東京地裁平元(ワ)16662号 判例時報No.1461

(7)家賃③
 経済事情の変動、消費税の創設、家賃の公平・均衡の要請等を理由とする公団住宅の家賃の増額請求が認められた事例
(平4.9.4)千葉地裁松戸支部平元(ワ)258号 判例時報No.1456

(8)土地・建物
 土地付き建物の売買契約において、土地・建物の区分明細が無い場合において、売買代金54百万円は「消費税19万5千円を含む」旨記載されているところ、消費税は土地の譲渡には課されないから本件建物の価格は右消費税の額から逆算して算出される金650万円と、黙示的に合意されたということができる。
(平6.8.25)千葉地裁松戸支部平4年(ワ)113号 判例時報No.1543号

(9)その他
 消費税課税事業者が、消費税相当額を代金に併せて受領したことは適用行為であって不当利得にはならない。
(平1.6.28)大阪地裁平元(ワ)2666号
(平2.6.28)大阪高裁平元(ネ)1437号 税務訴訟資料175号

(10)その他
 銀行が顧客から消費税相当額分18円を加えた618円を振込手数料として領収した場合の18円の領収は、法律上の原因に基づくものであり、銀行の不当利得ではない。
(平1.7.14)大阪地裁 平元(ワ)3056号
(平2.5.23)大阪高裁 平2(ネオ)86号 税務訴訟資料175号

(11)その他
 加害車Aと加害車Bの衝突により、A車が被害者所有に係る事務所兼住居建物を損壊した修繕工事費として3,391,500円修繕工事の25%に相当する諸経費として85万、合計額に消費税137,245円を加算した合計4,368,745円を損害として認める。
(平5.12.17判決)大阪地裁平2年(ワ)7418号 交通事故民事判例集26巻6号

(12)その他
 交通事故により全損状態となった被害車両の取得に係る諸経費の内、自動車取得税、割賦手数料、消費税等については出損に見合う使用がなかったという意味でいわば未償却の状態にあったので、耐用年数6年のうち1年使用されていたことを勘案すると、その約7割が事故による損害と認めるのが相当である。
(平6.4.14判決)横浜地裁 平5年(ワ)851号、平5年(ワ)1945号 交通事故民事判例集27巻2号

(13)その他
 納税者の主張は、外税方式で取引を希望したにもかかわらず、消費者である広告主がこれに応じてくれなかったというにすぎず、現に取引を行い、消費税相当額の支払請求を断念していることからすると、黙示的にせよ内税方式の取引を行ったものとみるほかない。
(平14.4.18判決)東京地裁平12年(行ウ)243号、平13年(行ウ)388号 税理2003年7月号付録 租税判例の回顧(平14年上半期)

(14)社会保険診療
 神戸地裁平成24年11月27日判決(平22(行ウ)61号)確定
 消費税法は仕入額相当額の転嫁をする権利又は義務に係る規定を置いていないし,事業者が仕入れ税額の負担が生じた場合にこれを解消する権利を有していることをうかがわせる規定も見当たらないから,原告らが仕入税額相当額の負担の転嫁(解消)に関する権利を有しているとは認め難く,転嫁方法の区別によって,原告らが上記権利を制限されているとはいえない。
 また,消費税法の制定当初から,消費税の導入による医療法人等の仕入れ価格の上昇に対する手当てとしては,健康保険法等における診療報酬の適切な改定によって対応することといたことが認められるのであるから,消費税法が想定する仕人税額相当額の負担を転嫁する代替手段は制度上確保されているものと評価できる
 転嫁方法の区別は、これが立法裁量として許容することができないほどの不合理な差別的取扱いに当たらず、憲法14条1項に違反しない。
  租税判例の回顧平成24年下半期 月刊税理平成25年12月号附録

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