1.open-PeppolにCTC(第5コーナー)を導入する問題の背景
open-Peppolの管理委員会は2020年1月にCTC(Continuous Transaction Controls)プロジェクトを承認し、同プロジェクトは2021年6月に最終報告書を提出しました。
本プロジェクト発足の経緯は下記2でご紹介する最終報告書の序文に書かれており、EU域内でのVAT脱税(2018年に約1400億ユーロのVATの脱税)に対処するためにopen-Peppol内でCTCプロジェクトが発足しました。
プロジェクトは税務当局とPeppol請求書を採用する民間企業との法的、技術的な相互機能を検討調整する作業を行ってきました。
同最終報告書に基づきopen-Peppol内部に新たなCTC Communityが制度改革で創設され、2021年12月24日には同委員会の委員長が選出されました。
CTC委員会では、open-Peppol加盟国ごとに異なる課税当局の果たすべき役割と多国間取引における調整が議論されます。
CTCが構築されると現行Peppolの4コーナーモデルが、1つ増えて第5コーナーモデルとなり、Peppolの果たすべき機能が大きく変わるものと予想されます。
open-Peppolで送受信されるデータから税務情報を抜き出してC5コーナーに送信され、それが課税当局に保管される仕組みになる予定です。
2.CTCの概要
CTCプロジェクトが2021年6月に完了し、9月に参考資料(Peppol CTC Reference Document)が公表されているので、詳しくはこの報告書をご覧ください。
https://peppol.eu/wp-content/uploads/2021/09/Peppol-CTC-Reference-Document-v1.0.pdf
現行Peppol 4コーナーモデルにおいては、税務当局はPeppolの直接当事者ではなく、税務当局の直接・関節的な税務情報収集機能は備わっていません。
現行4コーナーモデルにおいては税務当局の役割は、VAT(付加価値税事業者)番号の照会に対応する確認照会に応じるだけでした。
今後、Peppolにおいて税務当局が税務データを収集することを可能にするよう、既存のCTCを参考にしつつ新たなプラットフォームの構築を検討してきました。
新たなPeppol CTCでは税務当局をPeppolと連携した位置付けで、第5コーナー(税務当局の代理的サービスプロバイダー)を介してpeppol内で送受信される請求書の税務情報収集機能を有するようになります。
5コーナーには税務当局、デジタル化機関、公共調達当局が想定されています。
CTCモデルにおける税務当局の位置付けには大きく4つの型があります。
①相互運用モデル(Interoperability Model)
現行のC2→C3で行われるPeppolインボイスデータを統一化した上で、税務当局が利用できるようにする。
②リアルタイム・インボイス報告モデル(Real-time invoice reporting Model)
C1→C4での当事者間のPeppolインボイスの直接データ送信後に、送信済みのデータの写しを税務当局に渡す。
③集中交換モデル(Centralised exchange Model)
C2とC3のデータ交換は全て政府管理のインフラ(プラットフォーム)を介して行われる。
C2とC3の間のPeppolインボイスの直接送信は禁止される。
④クリアランスモデル(Clearance Models)
C1は、請求書データを政府インフラに送信しクリアランスを得る。その後、PeppolインボイスをC4に送信する。
Peppol CTCでは、国別に規制された請求書文書の交換を可能にする分散型(Decentralised)モデルを目指すことが最終報告書に記載されています。
2022年の行動計画(2022年4月開催の第14回総会資料に記載されている行動計画)
分散型CTCモデルの構築
国境を越えたCTCモデルの付加価値税取引への対応
PINTにおける税金コードの対応
end-to-endの暗号化(注:これで電子データの一貫性・統一性を図るのでしょう。)
企業と税務当局(TA:Tax Administration)の間のデータ交換を図り、税法の法令順守に寄与する。
付加価値税詐欺・脱税事件(VAT evasion, fraud)への対応のため、VAT項目については共通性を図る。
統一された構造化されたデータ形式で税務調査に対応できるようにする。
最終報告書(Peppol CTC Reference Document 19/71)頁に掲載されている概念図がPeppolが予定している分散型(Decentralised)モデルです。
左ブロック(肌色)は、C1とC2、または、C3とC4の関係ですからPeppol枠外です。
中央ブロック(白色)はC3とC4の関係で現行Peppolの枠内です。
右ブロック(緑色)が、新たに構築されるCTCでC5が当事者として組み込まれ税務データの収集・検証を行います。C5を介して税務当局が税務データを受信し保管することになります。
運用方法案
C2、C3は法令準拠の請求書を発行から24~72時間以内に当該国のC5に提出する。
税務当局は、第5コーナーのサービスプロバイダーから、Peppol請求書の中の税務データ(sub data)を受信し、検証した上でデータ保管する。
当該データは、CTC認証プロバイダー(C5)で認証されたもので、電子認証が必要となる。
企業は認定ソフトウエアを使用しなければならない。
Peppol当該国の中には一つのSMP(税務当局の認証を受けたもの)を設け、税務データに対応するようにする。
課題
e-invoiceingは強制されていないため、紙またはPDFが多く流通しているのでその対処が問題となる。
(参考:EUでは、紙と電子データは相互補完関係にあり電子データは強制適用されない法規制である。一方、日本では電帳法により所得税法と法人税法では電子取引に限っては電磁的記録保存は強制適用である。一方、消費税法では紙媒体取引の場合は電磁的記録は選択で紙に代えて利用できる、消費税法上の電子取引であっても選択で紙保存で仕入れ税額控除が可能な法制度である。)
大企業と中小企業では利用するプラットフォームの違いを認める。
3.日本のデジタル庁のCTC(Continuous Transaction Controls)委員会への参加
2021年9月にopen-Peppolに正式加盟した日本のデジタル庁は、Peppol Authority、eDdelivery、CTCの3つの委員会に所属しています。(各委員会の機能と付託事項の概略は図表の下をご参照)
デジタル庁はLA(Local Authority)として加盟し、CTC委員会に所属しているのは規制庁として当然のことでしょう。今後は、このCTC第5コーナーの機能について注視していく必要があります。
会計ソフトのヴェンダー企業であるTKC及び弥生会計がCTC委員会に所属(委員会には希望すれば加盟員であれば誰でも参加可能)した意図は、将来の税務対応のためのソフト開発と思われる。
CTC(Continuous Transaction Controls)
付加価値税(VAT)などの間接税の電子データ利用による徴収管理事項(徴収漏れ、租税回避など)の対応を検討する委員会である。
現行のPeppolは4コーナーモデルであり、将来的には5コーナーモデルを目指すことを検討するのがCTC委員会の付託事項である。
Peppolに第5コーナーを創設し、C2、C3から第5コーナー(C5)に税務データを報告させ、C5が受信したデータの検証を行うモデルである。
C5からデータを受けた税務当局は税務データを保管する。
eDEC(eDelivery Domain Community)
本委員会は、輸送インフラ協定(TIA)の継続的な維持管理と、e-Deliveryネットワークの継続的な持続可能性を確保を目的とする。
eDECの委員会機能は、すべてのPeppol APとSMPの協調と知識共有のためのフォーラムの提供することにある。
EDI取引に係る電子データ(ebXML)交換の通信プロトコルAS4の改良に向けての検討を行う。PoAC(Post-Award Domain Community)
本委員会は、Peppolネットワークで利用するBIS(請求書の標準仕様ひな形)の継続的な整備・改正のための検討(予備的検討を含む)を目的とする
PoACの委員会機能は、Pan- European Post Award standardization(汎欧州裁定書式)の協調と知識共有のためのフォーラムを全加盟員に対して提供することにある。
本委員会は、EU域外の加盟国との間のBIS標準書式の調整を行い、年2回(春、秋)の情報公開を予定する。