電子取引の電磁的記録の保存義務と要件不備から起きる問題

1.電子取引情報の電磁的記録保存の要件に従わない場合の罰則規定(制度)

 令和3年度の改正電帳法により、電子取引(所得税法及び法人税法)情報の保存は電磁的記録の保存のみとなりました。

 電子取引を行った場合の電子情報の保存を法令要件どおりに行わなかった場合には「青色申告の承認の取消し」の罰則規定が適用されます(改正電帳法8条第③項第2号及び3号)。これは、令和3年度の電帳法の改正が青色申告制度の帳簿や書類を正規の簿記の原則又は複式簿記の原則に従って記録する青色申告者を対象としていることと関係します。
 
 この青色承認の取消は次のような理論構成です。
①電帳法では電子取引情報については、一定の要件に従った電磁的記録の保存で「国税関係帳簿」や「国税関係書類以外の書類」のみなし規定を導入した。
②保存要件に従わない電磁的記録は、「国税関係帳簿」や「国税関係書類以外の書類」とはみなされない。
③みなし規定が働かない不備な電磁的記録は、所得税法や法人税法が規定する青色申告者の帳簿や書類の備え付け保存が無いことになるで「青色申告の承認の取消し」対象となる。

 電子取引情報の場合は、最初から紙がなく電磁的記録だけしかありませんから、要件不備の電磁的記録を書面出力しても「国税関係書類以外の書類」とはみなされない問題があります。ただし、記録不備の現実対応については総合勘案すると、電帳法一問一答(電子取引関係)令和4年6月版 問57の【回答】に記載されています。
 なお、この電子取引情報の電磁的保存規定の施行は令和4年(2022年)1月1日~令和5年(2023年)12月31日までの間は、一定の条件の下での宥恕規定が適用されるので、その間は従来どおり書面出力の保存で対応が可能です。

2.申告内容の適正性(所得の計算の誤り)と電磁的記録の不備の関係

 税法上損金(所得税法上の必要経費を含む)の計算は、費用収益対応の原則が適用され、さらに権利確定主義に対応する債務確定の有無で判定されています。
 現実に出金があり税法上の損金や必要経費の判定テストがある場合に、それが電子取引で法令どおりに電磁的記録保存を行わなかったことを理由に帳簿保存義務違反で損金性まで否定されるのかという問題があります。

(1)税法上の損金性の基本的考え方
 所得計算の誤りと帳簿不備の問題については、旧所得税法の時代から次のような基本的解釈が公表されており、現実の取引も調査した上で判定するようになっています。

 青色申告書の更正の取扱について(昭和29年10月4日)
 【所得税法45条①項1号本文にいう「その調査により所得の計算に誤りがあると認められる場合」とは、青色申告者の申告にかかる所得についてその帳簿書類自体から計算の誤りを発見した場合のみならず、その帳簿書類に関連する取引状況等の調査によって帳簿書類に逸脱、誤記、誤算のあることを確認した場合をも含むものと解すべきである。】

(2)電帳法の電磁的記録不備と税法の所得計算の関係
 上記(1)の解釈は、電帳法一問一答(電子取引関係)問57の【回答】の【解説】においても踏襲され、(注)に次のような説明がなされています。
 電子取引情報の記録不備があっても、所得計算における損金(必要経費)は別途確認できればそれが認められるような解釈が示されています。
  
(注)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかと心配している方が見られます。
 しかし、これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにもかかわらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。

3.消費税法の適格請求書の電磁的記録と仕入税額控除の関係

 上記2(2)の解釈は、所得税法および法人税法における損金性の実質判定の問題です。
 消費税法30条の仕入税額控除の適格請求書の保存要件は所得税法・法人税法とは異なり形式要件です。適格請求書の電磁的記録保存については要件不備があれば形式要件で仕入税額控除が否認されます。
 適格請求書の電磁的記録の不備への対応は、書面への代替出力を用意しておくしか方法がありません。
 
 改正消費税法施行規則第15条ノ5第2項
 令第50条第1項及び第2項並びに前項の規定にかかわらず、これらの規定により同条第1項及び第2項に規定する電磁的記録を保存する事業者は、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力したものに限る。)を保存する方法によることができる。この場合において、当該事業者は、当該書面を、これらの規定により保存すべき場所に、これらの規定により保存すべき期間、整理して保存しなければならない。

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