「消費税の仕入税額控除とデンジタルインボイス」週間税務通信2022.6.27

デジタル庁の加藤企画調整官の解説記事「消費税の仕入税額控除とデンジタルインボイス」(23頁)が掲載されています。
Peppolを利用して受信した適格請求書の保存は「自らが作成した記録」の保存に該当する恐れがあるので、仕入税額控除に制限があるとの解説がなされています。

仕入税額控除 peppol invoice インボイス デジタル庁

仕入税額控除 peppol invoice インボイス デジタル庁

この記事を読み解くには次の知識が必要です。

1.根拠法令
消費税の仕入税額控除は消費税法30条に基づくので消費税法体系で解釈する必要がある。
消費税法30条1項の仕入税額控除要件は、同条7項による帳簿及び請求書(適格請求書)の保存が要件である。

適格請求書を電磁的記録で受信した場合の保存要件は、政令50条、消費税法が引用する電帳法規則15条ノ5第1項、4条第1項各号が適用される。
しかしながら、この引用は電磁的記録を受信した場合の保存についての要件を規定したに過ぎないので、引用した電帳法規則の保存要件を充足したことが、即、消費税法の仕入税額控除要件を充足したことにはならない。
当該受信した記録をそのままなの保存なら問題ないのであるが、データ変換された受信記録をデータ変換してしまったら、それは受信した適格請求書とは言えないところに問題が所在するのである。

1.Peppolを利用した場合の電磁的記録の送受信形態
Peppolは4コーナーモデルの通信形態で、次のような手順で送受信される。

C1 売り主(X)が提供する適格請求書(甲)
↓↓
C2 売り主が委託するAP(Access Point)プロバイダー
↓↓
C3 買い主が委託するAP(Access Point)プロバイダー
↓↓
C4 買い主(Y)が保存する適格請求書(乙)最終end-user

C1は、電磁的記録の適格請求書をC2に送信する。
このC1の電磁的記録(甲)は独自フォーマットである。
独自データフォーマットではPeppol送信できないのである。

C2は、C1から受信したデータをPeppolXML形式に変換する。
C2はSML、SMPにC4が受け入れ可能なデータ形式を照合する。
C4が受け入れ可能な形式に、データ変換を行う。
適格請求書の法定記載項目は法57条ノ4第1項が規定する6項目に過ぎないが、Peppol送信のためにはデータelementが約50項目追加される。

C3は、C2から受信したXML形式をC4希望の独自形式に変換する

C4は、C3から受信した電磁的記録の適格請求書(乙)を保存する。

C4(買い主)が受信・保存する適格請求書の電磁的記録(乙)は、C1(売り主)が作成した電磁的記録(甲)そのものではなくC4独自フォーマット形式である。
C1からC4までの間には、少なくとも、2回のデータ変換がなされている。

C4(買い主)が受信・保存する(乙)は、C1(売り主)が提供した適格請求書(甲)の保存をしたことになるのか?
乙は、消費税法が規定する仕入税額控除の要件を充足すると言えるのか?

1.問題点
(1)甲データと乙データの間の同一性に起因する問題
データ内容が例え同じであっても、途中のデータ変換があるので(乙)はC1(売り主)が提供した適格請求書(甲)そのものではない。
データ変換を経ているので、C4(買い主)保存する適格請求書は、自ら作成した適格請求書になるため、加藤企画官は対応が必要との意見を提起している。

甲と乙の間のデータの同一性の問題は、訴訟の世界では証拠能力(民事訴訟法)としての議論がなされてきた。
電子署名法第3条には推定効の規定があり、同法は民事訴訟法第228条第4項の文書の成立の真正の推定規定の特則として設けられたもので、電子署名法第3条は法定証拠法則(契約成立の形式的証拠能力)と解されています。
電子署名法第3条については令和2年9月4日付けで総務省、法務省、経済産業省の連名で「電子署名及び認証業務に関する法律」第3条関係のQ&Aが発遣されています。
Q&A問2の回答では、真正に成立した電子文書の十分な固有性については次のような解釈が示されている。
本人との一体性について
・技術的・機能的にみてサービス提供事業者の意思が介在する余地が無いこと
・利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであること
・サービス提供事業者が電子文書に行った措置について付随的情報を含めて全体を1つの措置と捉え直すこと
固有性
・サービスが利用者に紐付いた適切なシステム処理

一方、税法の世界では係る議論がなされたことが無いので、データ変換を経た適格請求書が消費税法30条の仕入税額控除要件として有効か否かの議論はなされていない。
仮に、Peppolについて電子署名法第3条と同様な議論をするにしても、PeppolのC1とC2の通信及びC3とC4の通信はPeppolの枠外の独自通信であり、暗号の義務化もないので、システムとしての同一性確保が弱いという問題も存在するのである。

(2)インボイス通達3-1との関係
通達3-1
「適格請求書とは、法第57条の4第1項各号《適格請求書発行事業者の義務》に掲げる事項を記載した請求書、納品書その他これらに類する書類をいうのであるが、同項各号に掲げる事項の記載があれば、その書類の名称は問わない。
また、適格請求書の交付に関して、一の書類により同項各号に掲げる事項を全て記載するのではなく、例えば、納品書と請求書等の二以上の書類であっても、これらの書類について相互の関連が明確であり、その交付を受ける事業者が同項各号に掲げる事項を適正に認識できる場合には、これら複数の書類全体で適格請求書の記載事項を満たすものとなることに留意する。」

この通達によると、各種書類の合わせ技で法第57条の4第1項各号の記録が認識できれば良いことになる。
法定項目の存在だけから見ると、C4が保存する(乙)データには消費税法第57条の4第1項各号のデータが保存されているので問題ないことになるが、このデータそのものはC1売り主自身が提供した純正品ではなく、データ変換を経ているのでC4が自ら作成したデータの性格を持っているのである。

なお、インボイスQ&AにはPeppolの記述もなくデータ変換に関する想定質問や回答は存在しない。

(3)受信した電磁的記録の紙出力保存
改正消費税法施行規則第15条ノ5第2項では、受信した電磁的記録の書面保存が認められているため、(乙)データの紙保存をすれば良いように思えるが、次の問題点がある。
仮に甲と乙のデータには同一性があったとしても、上述したとおり(乙)データはC1から直接受信した電磁的記録ではなく、C4がデータ変換をしたデータであるため、この規定の適用も不可ということになる。

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