免税事業者の課税売り上げ高の算定

 消費税法9条2項、基本通達1-4-5

(1)平成8年11月22日裁決(国税裁決事例集No.52 平成8年分第2)
 基準期間が免税事業者であった場合の消費税法第9条2項で規定する課税売上高の算定方法については、課税資産の譲渡等の対価の全額の合計額(税込み)により算定することが相当である
※ 本件については、関与税理士がその顛末を「東京地方税理士会」第476号(1997.12.20)に投稿されています。

(2)東京地裁(平11.1.29判決)平成9年(行ウ)第121号
 具体的な消費税は、法9条1項の適用を受けない課税事業者が課税資産の譲渡等をした場合に当該事業者に課されるのである。
 免税事業者の行った課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税が存在しない以上、基準期間において免税事業者であった者の売上総額から除外すべき消費税額も存在せず、Xの本件基準期間の課税売上高は3,000万円を超えるというべきである。
  税理Vol.42 No.6(1999年6月号)

(3)東京高裁(平12.1.13判決)平11年(行コ)52号
 法9条1項【小規模事業者に係る納税義務の免除】は、5条により納税義務があるとされた者のうち免税事業者に該当する者について納税義務を免除し、課税要件としての納税義務者の範囲を限定するものであって、発生した消費税を免除するものではない ~中略~ 免税事業者の行う課税資産の譲渡等に含まれる価格の増加分については、これに課される消費税、ひいては転嫁されるべき消費税は存在しないから、基準期間において免税事業者であった者の売上金額から控除すべき消費税額に相当する額も存在しない。
→上告
税理 2001年9号付録 租税判例の回顧(平成12年上半期)

(4)鳥取地裁(平12.5.16判決)平11年(行ウ)2号
 前々事業年度における課税売上高は3千万以下とは認められないから、納税者は消費税の納税義務を免除される要件を満たしていない。
  税理2001/9号付録 租税判例の回顧(平成12年上半期)

(5)東京地裁(平12.12.27判決)平12年(行ウ)100号
 新設法人の納税義務について、課税資産の譲渡に納税義務があることを定める一方、例外的にその納税義務を免除する規定である法9条1項本文の規定は、新設法人には適用しないことも明確に規定しているのであるから、新設法人が消費税の納税義務を負っていることは明かである。
 簡易課税選択届出を提出した新設法人については、基準期間のない課税期間であっても、簡易課税が適用されると解することは文理に即したものである。
税理 2001年12号付録 租税判例の回顧(平成12年下半期)

東京高裁(平13.5.31判決)平13年(行コ)36号
 基準期間における課税売上高が2億円を超える課税期間に当たらない場合であるから、基準期間のない課税期間であっても、簡易課税が適用されると解し地裁の判断を維持した。
税理 2002年7号付録 租税判例の回顧(平成13年上半期)

(6)平成13年3月14日裁決(国税裁決事例集No.61)
 消費税法第9条第1項の規定の適用により免税事業者となる者については、納税義務が発生しないことから、基準期間における課税売上高の計算上課されるべき消費税額等に相当する額は存在しないとした

(7)平15.1.28裁決(国税裁決事例集No.65 平成15年分)
 請求人の課税売上げは受託販売の手数料収入ではなく卸売販売による売上であり、各課税期間の基準期間の課税売上高が3,000万円を超えているので消費税を納める義務は免除されない。

(8)平成16.3.29裁決(国税裁決事例集 No.67)
 免税事業者に該当するか否かを判定する際の課税売上高は、請求人が基準期間の確定申告において選択した課税売上高の算出方法によるのであり、それ以外の方法で算出した場合に課税売上高が3,000万円以下となるとしても、そのことは更正の請求をすることができる事由に該当しない。

(9)山形地裁(平成18.3.14判決)平17年(行ウ)3号
 本件請負工事における建築代金の支払状況、その支払に対する領収書の名義、仕入れ先及び外注先を決定し、発注する主体、仕入代金等の支払者、仕入れ先及び外注先が発行した請求書及び領収書の保管者、及び設計監理契約が本件請負工事と独立してなされた形跡がないことは、いずれも、納税者が本件請負工事の取引を全体的に支配管理していることの現実化であり、これによれば、納税者が本件請負工事を実質的にすべて請け負っていたものと認められるのであるから、本件請負工事における課税売上高(税込み)は、本件請負工事において納税者が受け取った金額総額となるところ、本件各課税期間において納税者に消費税法9条①項は適用されず、納税者は免税事業者ではない。

(10)東京地裁 平成23年3月2日判決(平20(行ウ)535)確定
 前提事実によれば,原告は,消費税法2条1項4号及び地方税法72条の77第1号所定の事業者に当たり,かつ,本件課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であると認められるから,本件課税期間につき,事業者のうちその基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者(以下「小規模事業者」という。)に当たる。したがって,消費税法9条1項ただし書により同項本文の規定の適用が排除される場合に当たらなければ,原告は,免税事業者に当たることになる。
 原告が処分行政庁に対し提出した57条届出書には,本件課税期間につき消費税法9条1項本文の規定の適用を受けない旨の記載は見当たらないから,本件課税事業者届出書をもって,9条4項に規定する届出書に当たるということもできない。
 租税判例の回顧平成23年上半期 月刊税理平成24年7月号附録

(11)新潟地裁 平成23年6月2日判決(平22(ワ)1030号)控訴
 事業者が、消費税法9条1項に該当するとして,課税期間に係る基準期間において課税資産の議渡等につき消費税等を納める羲務を免除された場合に,同法9条2項,28条1項を適用して当該基準期間における課税売上高を算定するに当たっては,免除される消費税等相当額を控除することなく,課税資産の譲渡等の対価の額を算定すべきであり,これと同旨の本件通達(基本通達1-4-5)は消費税法の規定に違反するものとは認められず, これと同旨の見解に立つ新発田税務署長の異議決定等が違法とは認められない
  租税判例の回顧平成23年上半期 月刊税理平成24年7月号附録

(12)東京地裁 平成23年8月29日判決(平22(行ウ)530号)
 原告は,本件課税期間においては免税事業者であり, 消費税法45条1項,地方税法72条の88第1項前段等の規定が適用されず,納付すべき消費税額及び譲渡割額や,還付金の額に相当する消費税額及び譲渡割額は生じないにもかかわらず,原告が提出した本件確定申告書には,還付金の額に相当する消費税額及び譲渡割額が記載されており,本件確定申告書が消費税法及び地方税法の規定に従って計算されていないことは明らかである。
 原告の本件課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額は,本件更正処分におけるそれらといずれも同額であるから,本件更正処分は適法である。
 租税判例の回顧平成23年下半期 月刊税理平成24年12月号附録

(13)名古屋地裁 平成23年7月21日判決(平21(行ウ)33号、平22(行ウ)49号) 控訴
 原告が行う役務の内容は,混載業者が集貨した混載貨物の積載スペースの手配にすぎないと認められるから,そのような役務の提供をもって消費税法7条1項3号所定の「貨物の輸送」に該当すると認めることはできない。
原告は,そもそも通関業者でないことはもとより,指定保税地域等までの運送や指定保税地域等での作業を行うものではなく、本件各国内支店から委託を受けた航空貨物の仲介又は取次ぎ業務を行っていたにすぎないから、原告の行った業務が外国貨物の荷役、運送、保管、検数、鑑定のいずれにも該当しないことに加え,当該外国貨物の荷役等に類する外国貨物に関わる役務の提供にも該当しないことは明らかであり,原告が主張する航空貨物の取次ぎに係る取引をもって,消費税法7条1項5号,同法施行令17条2項4号所定の「外国貨物に係る役務の提供」に当たると認めることはできない。
 以上のとおり,原告が行う本件取引は,いずれも消費税法7条1項所定の輸出免税取弓に該当するものとは認められない。
 租税判例の回顧平成23年下半期 月刊税理平成24年12月号附録

(14)山口地裁平成25年4月10日判決(平22(行ウ)5号)控訴
 消費税法8条1項は,輸出物品販売場において,非居住者に対し政令で定める物品で輸出するため所定の方法で購入されるものを譲渡する場合,事業者に対し消費税を免除する旨定め,これを受けて定められた消費税法施行令18条1項は,上記物品を,「通常生活の用に供する品」と規定するところ,「通常生活の用に供する物品」とは,当該非居住者が通常の生活において用いる物品を指すのであって,その者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品は含まれないと解される。本件家電製品の販売状況(販売回数,販売数量及び販売金額)からすると,購入者らは,本件家電製品を通常の生活において用いようとする物品として購入しようとしたのではなく,事業用又は販売用に購入したことが明らかであるというべきであるから,消費税法8条による免税は認められない。
 本件においては,原告は,本件家電製品のうち,どの取引が消費税法7条の適用を受けるかを特定せず,上記書類等に該当する書類を提出しないなど,本件家電製品販売が消費税法7条の適用を受けることについて具体的な主張立証をしないから,本件家電製品が消費税法7条1項の適用を受けるとは認められない。
  租税判例の回顧平成25年上半期 月刊税理平成26年7月号附録

  広島高裁平成25年10月17日判決(平25(行コ)13号)上告
 争点は、本件における家電製品の販売(以下「本件家電製品販売」という。)に
係る消費税につき,消費税法8条による免税が認められるか(争点1)②本件家電製品販売に係る消費税につき,消費税法7条による免税が認められるか(争点2)にあった。
 本判決は,納税者の請求を棄却した原審の判断を維持し,納税者の控訴を棄却した。

(15)東京地裁平成25年7月10日判決(平24(行ウ)687号)
 原告が消費税法7条2項により要件とされる消費税法施行規則5条1項1号の税関長証明書類等に該当すると主張する船内販売品目録は,関税法の規定による輸出許可書として取り扱われるべく作成されたものではない上,外国船舶の乗組員に対する土産品等の販売がその品名,数量及び価額において関税法その他の法令等の定めに適合するものであるかどうかを確認するため便宜上提出を求めているものであるから,消費税法施行規則5条1項1号の関税長証明書類等に当たらない。また,同目録には,少なくとも当該資産の仕向地の記載は見当たらないから,同目録に消費税法施行規則5条1項1号二の記載がされているとは認められない。
 よって,原告による本件土産品等の販売については,消費税法7条1項1号の規定の適用がある資産の譲渡に該当するとは認められない。
  租税判例の回顧平成25年下半期 月刊税理平成26年12月号附録

 東京高裁平成25年11月21日判決(平25(行コ)289号)控訴
 最高裁平成26年4月25日決定(平26(行ツ)73号、平26(行ヒ)81号)確定
 上告申立て不受理
 
(16)東京地裁平成27年3月26日判決(平23(行ウ)718号)
 本件取引は,原告がA社(訪日旅行ツアーを主催する外国会社)に対し役務を提供するものであるから,消費税法7条1項1号又は消費税法施行令17条2項6号の「資産の譲渡又は貸付け」に当たらず,輸出免税取引に該当しない。
 また、消費税法施行令17条2項7号ハは、非居住者に対して行われる役務の提供であっても、国内に所在する資産に係る運送又は保管及び国内における飲食又は宿泊に準ずるもので、国内において直接便益を享受するものを輸出免税取引から除外しているところ,これらを除外しているのは,これが国境をまたがない,正に国内において消費されるサービスであり,輸出と捉え得るものではない点にあることなどに鑑みると, 同号ハの範囲を殊更限定的に解釈するのは相当ではなく,国内に所在する資産に係る運送又は保管及び国内における飲食又は宿泊に類するものであり,かつ,国内において消費されるサーピスについて,広く同号ハに該当するというべきである。
 原告が提供する本件役務は,国内に所在する資産に係る運送又は保管及び国内における飲食又は宿泊に類するものであり,かつ,国内において消費されるサービスであるということができるから,同号ハに該当し,輸出免税取引に該当しない。 
 租税判例の回顧平成27年上半期 月刊税理平成28年7月号附録

 東京高裁平成28年2月9日判決(平27(行コ)156号)
  納税者の控訴棄却
 租税判例の回顧平成28年上半期 月刊税理平成29年7月号附録

 最高裁平成29年2月3日判決(平28(行ヒ)197号)
  上告不受理
 租税判例の回顧平成29年上半期 平成30年7月号附録

(17)東京地裁平成28年2月24日判決(平26(行ウ)250号)確定
 原告は,本件取引において,本件海外旅行者に対し,各種サービス提供機関をして,旅行者に対して国内における飲食,宿泊,運送,観光,案内等の各種サービスを提供させるという役務を提供していたものであるから,本件取引は,非居住者である本件海外旅行会社に対して行われる役務の提供というべきものではあるが,本件取引において提供される役務のうち,レストランでの飲食やホテルでの宿泊等に関する部分は,国内における飲食又は宿泊に該当するということができるから,消費税法施行令17条2項7号ロに該当し,その余は,国内における飲食又は宿泊に類するものであって,かつ,国内において直接消費されて完結するものに該当するということができるから,同号ハに該当するというべきである。
 したがって,本件取引は,消費税法施行令17条2項7号に該当しないことから,輸出免税取引に該当しない。
  租税判例の回顧平成28年上半期 月刊税理平成29年7月号附録

(18)大阪地裁令和元年5月24日判決(平成28年(行ウ)2号)
 本邦港湾に停泊中の外国船舶内での外国船舶船員に対する土産販売・国際郵便を利用しての販売に係る輸出免税の事例
 法2条1項1号は,「国内」とは法の施行地をいう旨規定するところ、国の制定する租税法の施行地,すなわち,その効力の及ぶ場所的範囲は,特段の定めのない限り,我が国の主権の及ぶ地域たる,我か国の領土,領海及び領空(本邦)の全域にわたるのであって,本邦内の特定の場所につき租税法の効力が及ばないためには,条約(我が国が批准したものに限る。以下同じ。),法令(我が国が制定したものに限る。以下同 じ。)等においてその旨が明文で規定される必要があるものと解される(外交関係に関するウィーン条約23条,国際連合の特権及び免除に関する条約2条7項,地方税法348条9項等参照)。そして,原告が資産の譲渡たる本件船内販売等を行った時点においては,資産の譲渡の対象たる土産品等及び船用物品は,本邦内の港湾に停泊中の外国船舶内に所在していたと認められるところ,本邦内の港湾に停泊中の外国船舶内につき法を含む租税法の効力の及ぶ場所的範囲から除外する旨を明文で規定した条約,法令等は見当たらないから,本件船内販売等は,法2条1項にいう「国内」において行われたものに該当するというべきである。
 土産品目録等に記載された土産品等の外国船舶内への持込みを事実上承諾する旨の受理印(確認印)での割り印も税関長名義ではなく税関名義で行われることを併せ考えると,土産品目録等が土産品等の輸出の事実を税関長が証明する趣旨のものでないことは明らかである。したがって,土産品目録等は,輸出証明書に該当しない。また,土産品目録等には,少なくとも,当該土産品等の仕向地(消費税法施行規則(平 成27年財務省令第27号による改正前のもの。以下「規則」という。) 5条1項1号二)が記載されていないから,本件船内販売は,規則5条1項1号所定の輸出証明書の保存がされていないため,法7条2項所定の証明がされたものに該当するということができない。
 原告が,本件積込承認申告書につき,その事務所等に前記各日から7年の間,間断なく保存したと認めることはできない。したがって,本件積込承認申告書については,7年間保存要件を満たしていないのであって,本件事前注文販売は,規則5条1項1号所定の積込承認証書の保存がされていないため,法7条2項所定の証明がされたものに該当するということができない。
 原告の平成23年及び24年の総勘定元帳には規則5条1項2号所定の事項の記載がさ れていない。
 本件EMS(国際スピード郵便)等による販売は、規則5条1項2号所定の2号帳簿が保存されていないため、消費税法7条2項所定の証明がされたものに該当するということはできない。
 租税判例の回顧平成31年・令和元年上半期 月刊税理令和2年7月号附録

 大阪高裁令和元年11月29日判決(平成元年(行コ)1103号)上告
  請求棄却
 租税判例の回顧令和元年下半期 月刊税理令和3年1月号附録

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