免税事業者との取引について(値引き問題への対応)

1.免税事業者の適格請求書(インボイス)の交付禁止規定

 改正消費税法(2023年(令和5年)10月1日施行)の施行により、免税事業者は適格請求書の交付が禁止されます。(改正消費税法57条ノ5)
 注:免税事業者とは、基準期間(前々年)における売上高が1千万以下の者で、消費税の申告納税義務が免除されているものの総称です。

 商品販売時に適格請求書の交付ができない場合は、売主は商品代金に消費税10%を上乗せして請求することが難しくなることが予想されます。

 商品代金に上乗せする消費税は消費に負担を求めるもので、経済に対する中立性を確保するために多段階で課税された税の累積を排除するため、各段階での仕入れ税額控除方式を採用しています。
 この立法趣旨は、消費税法創設の根拠法である昭和63年の税制改革法第10条に規定されています。
 
 厳密な意味での税としての消費税は、消費税の申告納税義務を負う者にとっての租税ではあっても、最終消費者にとっては価格の一部で上乗せされた10%分を負担しているに過ぎませんから、正確には消費税相当額という名の対価です。
 消費税法が施行された昭和63年直後の消費税法の基本に係る裁判事例においても消費税の根本的性格論が争点になりましたが、今では消費者が負担するのは消費税相当額という対価であるという解釈が確立していると言えます。
 裁判例については、本ブログの別ページをご参照ください。
 
 消費税相当額が対価の一部だから、改正消費税法施行の2023年(令和5年)10月1日以降も従来どおり免税事業者が消費税相当額を上乗せして販売しても理論上は問題ないのですが、免税事業者が適格請求書の交付なしに消費税相当額を上乗せすると益税問題が再燃しそうです。
 
 一方では、免税事業から仕入れについては仕入れに係る適格請求書の交付を受けることができず仕入れ税額控除ができないため、昭和63年税制改革法第10条が予定した「経済に対する中立性を確保するため」の「課税の累積を排除」が実現できなくなるが多く起きるようになります。
 

2.経過措置の適用

 免税事業者との取引については、適格請求書の交付がない場合でも仕入れ税額控除ができるよう、6年間の経過措置が設けられています。
 改正消費税法の施行(2023年(令和5年)10月1日)から3年間は、仕入れ税額控除の80%を、その後の3年間は本来の仕入れ税額控除の50%を適用できます。(平成28年改正法附則第52条および53条)
 
 この措置については国税庁が発表している「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」2022年4月改訂版 問89に詳細な説明がなされています。
 経過措置の適用には、一定の帳簿記載要件が課されています。
 
 課税事業者が免税事業者から仕入れを行う場合に適格請求書の交付が受けられず仕入れ税額控除ができなくなると、上述した多段階税額控除方式が途中で途切れるため、仕入れ側が消費税相当額を自腹を切ることになります。
 それを回避するために、仕入れ側から売上側の免税事業者に対して値引き要求が起きることが予想されます。
 経過措置があったとしても値引き要求があることには変わりがありません。

 値引き対応については、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A 令和4年3月8日改正版」が財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省の連名で公示されています。
 https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html
 この文書では取引価格の引き下げを強引に行うと独占禁止法や下請法上問題となると注意喚起がなされています。
 文書は、「取引先の免税事業者との間で、取引価格等について再交渉する場合には、免税事業者と十分に協議を行っていただき、仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意する必要があります。」と結んでいます。

 値引きは一方的に強権的に行うのではなく経過措置を踏まえつつ価格交渉の場において行うよう勧めています。
 経過措置を踏まえると次のような段階的な値引き可能額の計算となります。
 
2023年10月01日~2026年9月30日
 税込み価格×10/110×20%=値引き可能相当額

2026年10月01日~2029年9月30日
 税込み価格×10/110×50%=値引き可能相当額

2029年10月01日~
 税込み価格×10/110=値引き可能相当額

 

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